ピアノの上手な選び方

 初めてピアノを買う方も、新しいピアノに買い換える方も、どんなピアノを選べば良いのか迷う事があると思います。そんな皆様へ、エルフラット音楽教室室長で武蔵野音楽大学講師、ピアニストの岩倉孔介先生に「上手なピアノの選び方」についてお尋ねしました。

 

 

 

そもそも「良いピアノ」とは

 

 

 まずはじめに、どういったものが「良いピアノ」の基準となるか、というところからお話ししたいと思います。

 僕が最も大事と思う事は、音色・音質が幅広く変化するピアノであるかどうかです。

 ピアニストは音色と音質を操り、様々な表情を音で作り上げます。主に鍵盤にかける「重さ」と、鍵盤の動く「スピード」がこの色彩を決定しますが、良いピアノであれば微細なタッチの違いを楽器が読み取り、豊かに表現してくれます。逆にこの色彩が乏しいピアノであると、頑張って音色を作ってもいまいち反応が悪いという事が起きてしまいます。そのピアノのパレットに、そもそも何色乗っているか、という風に考えるとわかりやすいかもしれません。

 音色・音質の幅広い変化は、練習においても「耳」を鍛えるために、そしてそれを「運動」と結びつけるためにも重要です。僕の師匠が「聴いた事のない音は出せない」とよく言っていましたが、耳を鍛える事そのものが、ピアノの上達に結びつくと僕も思います。

 ホールなど広い場所で演奏するならば、加えてどこまで豊かな音量が出るかという事も考えなければなりませんが、家庭で主に練習の目的や、限られた空間で演奏する場合であれば、音量については部屋の広さに合わせて柔軟に考えて良いと思います。

 

 

良い響きは、良い技術者あってのもの

 

 

 次に大事な事は、技術者によって丁寧に手を加えられたピアノであるかどうかです。

 ピアノの演奏とは、実はピアノと演奏者がいるだけでは成り立ちません。調整されていないピアノでは、どんなに良いピアノであっても、またどんなに良い演奏者であってもそのポテンシャルを十分引き出す事はできません。演奏会でも、調律師さんがそのホールの響きやピアノの状態を見極め、そしてピアニストの特徴や好みに合わせ最適な調整を施します。僕たち演奏家は、技術者の皆さんに支えられているといっても過言ではありません。

 特に中古ピアノを購入する場合では、ピアノの内部が良い技術者の手で、しっかり修理・調整されているかは大事な部分です。長く使われたピアノでも、丁寧に調整されていれば良い響きがします。また新品を選ばれる方も、良い技術者が手を加えていく事で、だんだんとその場所や弾く人の好みに合った良いピアノに成長して行くでしょう。

 

 

時には「良い耳」に頼ることも

 

 

 最後に、アコースティックピアノの選び方において難しい点は、新品でも個体差があり、また中古ではそのピアノの使われ方、保存のされ方などによって、新しい古いに関係なく、また同じモデルであっても大きく違う響きが生まれてしまう事にあると思います。さらに響きという目に見えない部分を判断しなければならないので、特に初めてピアノを買われる方は、まだ良し悪しがよく分からない場合もあるでしょう。またアップライトピアノを選ぶ際は、響きがダイレクトでない分、特にその違いを見極めることが難しいと思います。

 ピアノをたくさん学習されてきた方は、やはりご自分の耳を信じる事が一番と思います。ただし、設置する部屋の響きと調整で大きく変化する事も考慮すべきです。そこで選定の際は、先に申し上げた「音色・音質の変化」という部分を大事にして頂ければ、音作りに関してはある程度調律師さんと解決して行ける問題なのではと思います。

 そしてピアノをはじめて間もない方や、一人で選ぶのが難しい方は、やはり熟練者の耳を借りるのが無難と思います。好みの音、というのはだんだんと出来上がってくるもので、さらに十人十色です。そうなると、やはりそのピアノの個性ではなくポテンシャルで選ぶ必要があるため、ご友人や先生と一緒に見に行ったり、また楽器店には選定できるピアニストがいる場合もあるので、問い合わせてみると良いと思います。

 

 

「良いピアノ」を選ぶための3つのポイント

 

 

 以上の要点をまとめると、

・音色がたくさん変化するかどうかに注目する

・購入した後も、良い調整ができるお店を選ぶ

・自信がなければ、選んでもらえる人を探す

というポイントを押さえておけば、上手にピアノが選べるのではないかと思います。

 

 

岩倉 孔介 (いわくら・こうすけ)

 

桐朋学園大学首席卒業、ベルリン芸術大学、リューベック音楽大学大学院卒業。ピアニスト、武蔵野音楽大学講師。日本各地でリサイタル、講演を行う他、ピティナピアノコンクール地区本選審査員等歴任。